2017年9月28日木曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-5 SO2:店から始める職人生活

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1-5 SO2:店から始める職人生活

「『メィクラ』……『メィ↑クラ↓』……『メィ……ク……ラ』」
「メィクラ?」

俺からヘッドギアを取り上げた少女は、俺のおかしな言葉に首をかしげる。

このショートヘアでボーイッシュな少女は俺の妹、ユウナだ。
女の子とは母ちゃん以外会話したことがないと言っていたが、ユウナは「妹」であって女の子ではない。
異性とは別の「妹」という属性なのだ。

何度イントネーションを変えて試してみるも、まくらと発音できない。
やはり俺の脳内、発声回路は「まくら」から「メィクラ」に書き換えられている。

おかしなワードを何度も口にしている俺に、ユウナが訝しげに問いかけた。

「お兄ちゃん……? 何その『メィクラ』って……」
「……知らないのか? ソールドアーゥト2オンラインだよ。ユウナも憧れのファンタジー世界にお店を出してみないか? お客はなんと俺だよ!」
「ソールドアーゥト2……? お兄ちゃんがやってるゲームなの?」
「ダメだ……! ユウナは絶対プレイしちゃいけない!!」
「え? やっちゃダメなの?」

問に対し、俺の口から広告文が発動する。
俺は強制ログアウトでペナルティを受けてしまったのだと確信した。
ゲームに誘っておきながら、するなとは、完全に矛盾している発言になっている。
俺自身もおかしなことを言っていると思う。
それでもユウナを巻き込むわけにはいかない。
俺はゲームから話をそらした。

「……とりあえずご飯に行くか……」
「う、うん」

ユウナは腑に落ちない様子だったが、ご飯が冷めてしまうと言った手前もあったのだろう、深く追求することをやめてくれた。
よし、一旦ご飯を食べて落ち着こう。
考えるのはそれからだ。
俺はSO2プレイ前にトイレに行ったきりだったのを思い出す。

「あ、先に『スワンボート』寄ってからいくわ」
「わかったよ……ん?」
「『スワンボート』……『スワン……ボート』?!」

馬鹿な……トイレとスワンボートは関係ないだろ!!!
どうなっているんだ。
俺は必死に考えを巡らせる。
答えがでない。
そうしている間に、おかしな人を見るような目でユウナは俺に問いかける。

「スワンボートって何……お兄ちゃん」
「これはおまるじゃなくてスワンボートだっつってんだろ!!」
「だから、スワンボートって何なの?!」
「これはおまるじゃなくてスワンボートだっつってんだろ!!」
「お母さぁぁあん!! お兄ちゃんがおかしくなっちゃった!!!」

ユウナは異変を感じて母の元へ走る。
スワンボートへの問いかけの回答広告文は固定されているようだ。
同じ広告文を連呼している俺自身、頭がおかしい人だと思う。

同じ広告文……?
おまるじゃなくてスワンボート……。
……おまる?!

「『スワンボート』……そうか!『スワンボート』とはつまり『スワンボート』のことで、ゲーム内ではスワンボートが『スワンボート』と呼ばれているアイテムだから、『スワンボート』をスワンボートと言ってしまうのか!!」

は……?

「一体俺は何を言っているんだ……?」

思いついた推理が霧散していく。
とにかくスワンボートだからスワンボートなのだ。
俺は、考えるのをやめた。


1-6 お風呂回サービスカット……省略されました へ続く

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